Fahrenheit -華氏- Ⅱ
いつも通りの時間に出社すると、瑠華はすでに出社していて、何やらデスクの上で忙しそうに仕事中だった。
「おはよ、相変わらず早いね~」
と声を掛けると
「あ、おはようございます」と瑠華は顔を上げた。瑠華の今日のお召し物は上品な色合いのグレージュのジャケットと同じ色のカットソー、上品な三連パールのネックレス、スカートはラインがきれいなネイビー色。髪はカジュアル過ぎない程度にお洒落にまとめてあった。
今日も抜かりなくセンスがいい。
「あれ?今日外回り?打ち合わせ?」と聞くと
「ええ、東星紡の小野田専務の所へ。例の桂林のリゾート案件の進捗をお報せしようかと。少々難航しているのでお詫びも兼ねて」
桂林のリゾート案件……
ああ、あれは一回瑠華から稟議を提出されたが俺がGOサインを出さなかったから、未だ進んでいない状態だ。
「ちょうど良かったです、これ手直しした稟議書です。もう一度お願いいたします」
ときれいにファイリングした稟議書を手渡され、俺は素直に受け取った。
俺が上への提出を渋ったから、半分俺のせいでもある。だから瑠華に謝りに行かせるのは忍びない。
「俺も行こうか」
と目を上げると
「大丈夫です」とバッサリあっさり。
すみません…不甲斐ない上司で。と心の中で反省。
瑠華は仕事が一段落したのか軽く伸びをして、コーヒーのカップに口を付ける。
コーヒーよりも、上品な色合いのボルドー色の口紅が乗った瑠華の唇が…うまそう……
じー……
と見つめていると
「部長もコーヒー飲まれますか?淹れてきますけれど」と瑠華は淡々と答える。
このひと、昨日俺に『あなたに出逢えて幸せ』て言ったひとと同一人物だよね。
とちょっと疑わしくなったが。
てか、俺そんなもの欲しそうな顔してた!?
「いや、コーヒーぐらい自分で淹れるよ、それより急なんだけど今日の夜心音ちゃんて空いてないかな?」
俺が切り出すと
「心音?」と瑠華は目をぱちぱち。
まだ朝早い時間だからほとんど出社していない。プライベートな話も声を潜めなくても充分できる。
「そうそ、昨日言ってたじゃん?心音ちゃんは悪評の情報を事前にブロックできるとか、早速裕二に持ちかけたらアイツかなり乗り気で、話聞きたいって」
「ああ、なるほど。大丈夫だと思います。聞いてみますね」と瑠華は携帯を手に席を立ち上がろうとしたが、前述した通り朝早い時間帯他のブースにちらほら出社している程度だ。
「ここでいいよ」と言うと瑠華は素直に頷きその場で心音ちゃんに電話をしていた。