Fahrenheit -華氏- Ⅱ
翌日、AM07:20
今日は村木を尾行する為に、久しぶりに電車通勤をした。
山手線品川から乗って恵比寿は東京メトロ日比谷線に乗り換え広尾で降りる。
時間にして20分。車で行くときと大して時間は変わらないが、久しぶりの電車通勤はやっぱ疲れる。割と早い時間帯だったからそれ程人が多くなかったことだけが幸いだ。
ほぼ通常通りの時間帯に出社すると、今日も瑠華は俺より早く出社していた。
メガネ姿ではなかった。
「おはようございます」
「おはよ~、今日も早いね」
「ええ、最近早めに帰っているので、どうしてもしわ寄せが」と言っていたが、作業が特別遅れてるわけでもないし、売り上げが少しだけ停滞している程度だ。でもたった3、4日。心音ちゃんがNYに帰っていったら取り返す自信はあったが、瑠華も真面目っちゃ真面目だよな。
挨拶を交わしてデスクに腰かける、そのタイミングで瑠華がこそっと
「昨日御馳走様でした、とても美味しかったです」と内緒話をするように顔を寄せてきて、無駄に元気が出た。
「俺も紹興酒御馳走様、美味しいね。でも一人で飲むのは勿体ないから今度……」一緒に…
言いかけて言葉をしまったのは、隣の部署の内藤チーフが出勤してきたからだ。
じっくりと中を覗かないとどう言う状況か分からない造りにはなっているが、何となく嗅ぎつけたのだろう。
「あら、おはようございます、お二人さん」語尾に「うふふ」と付け足しそうな言葉で何やらご機嫌に自分のデスクに向かっていった。
「俺、時々思うんだけど内藤チーフってさ、時々TUBAKIウェディングの香坂さんみたいじゃね?」
それこそ内藤チーフに聞こえないよう細心の注意を払って瑠華に言うと、瑠華は苦笑い。
そこからは、隣の部署に内藤チーフも出勤してきたわけだし真面目に(?)に仕事をしていると、8時を少し回った所で佐々木が出勤してきた。
それからすぐに裕二が顔を出し
「おはよっす」
「うっす。てか何か用?」
「冷てぇな」
と悪友ながらの挨拶を交わし終えるほぼ同じタイミングで
「おはようございます」
と、瑞野さんが
遠慮がちに顔を出したのを見て
俺と瑠華は思わず顔を見合わせた。
良かった。昨日会長である親父からこっぴどく叱られてから落ち込んでて、しかもその後(俺のせいで)心配になる程取り乱してたから休むかと思ったけど。
瑞野さんは若干顔色が悪いものの、普段通りの様子だったが、それこそこの部署に就業時間前に何の用だろう。俺が首を傾げていると
「あの…昨日はご迷惑をお掛けしました」
瑞野さんは頭を下げ、ちょっと高級感のある菓子店の紙袋を俺に差し出してきた。