Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「昔はあんなじゃなかったのに、歳を取ると変わるものかしらね女ってのは」
綾子が乱暴にビールの缶に口を付け
そのタイミングで裕二がリビングの扉を開けた。腹の辺りをさすりながら
「啓人の餃子が旨くてついつい食い過ぎちまった」と苦笑いを浮かべていた。
「綾子~、お前酔っぱらってンな。帰ろうぜ」と裕二は綾子の肩に手を置き、今まで憤慨していた綾子はまるで借りてきた猫のように大人しくなって裕二の手に素直に縋っている。
「今日は裕二ンちに泊まる~」と裕二にしなだれかかっている綾子を支えながら
「おお、そーしようぜ~」と軽く笑ってはいたが……その表情がどこか寂しさを浮かべていた。
裕二は―――腹が痛いフリをしていたけれど、きっと俺たちの会話を聞いていたに違いない。
その後、裕二は酔った綾子を連れて帰って行った。
後片付けはほとんど終わっていた。シャワーを浴び、寝る前にもう一度瑠華に貰った紹興酒を口にする。
それは確かに旨かったけれど、瑠華と隣り合って飲んだときのような旨さを感じられなかった。
綾子が言ったことってこう言うことだよな。どんなに高価なものでも、愛する人と共有できなきゃ意味が無いんだ。
俺は―――左手薬指に、瑠華のくれたティファニーのリングをはめ、それをまじまじと眺めた。
それなりに値が張るものだが、俺は瑠華がくれるものだったら、例え安物のシルバーでも嬉しい。
女は―――何故マウントを取る生き物なのだろう。
自分より上を見つけるとそれを超えようと必死になる、自分より下を見つけると安心する。
でも瑠華はマウントを取る女じゃない。
いつだって誰かと比べることはしなかった。
「あたしはあたし。他の誰も
“あたし”にはなれない」
瑠華の言葉が聞こえた気がするが、これは完全に夢の中の声で。
結局、俺はソファで眠ってしまってそのまま朝を迎えることになった。