Fahrenheit -華氏- Ⅱ
色々あって会社も子供も手放すことになった瑠華の過去をほじくり返したくない。
話題を変える為
「瑞野さんだって可愛い時計してるじゃん」と俺は瑞野さんに笑いかけた。瑞野さんの手首には品の良いピンクゴールドの時計が巻き付いている。
「あ、ありがとうございます」瑞野さんはほんの少し頬を染めて笑い「でも柏木補佐のと比べたら桁違いで…」
「瑞野さん」
瑠華が口を開いた。
とても静かな口調だったにも関わらず不思議と力強さを感じた。
「あなたが纏っているものは全て素敵なものです。誰かと比べるものではありませんし、比べたところで何になると言うのですか。
あなたに似合っていれば、それが最高に高価なもので価値があるものです」
瑠華……
瑞野さんは瑠華の言葉に少し驚いたように目をぱちぱちさせて、やがてほんの少し微笑を浮かべた。
「ありがとうございます。気に入ってるものなんです。実は初任給で奮発して買ったもので」
「それじゃ尚更思い入れがあるよね。そうゆうの大事にする瑞野さんはやっぱ女の子としていいよ」何気ない発言だったが、瑞野さんは益々顔を赤くした。
な、何か……この反応…どう返せばいいの??
俺が戸惑っていると
「啓人、ちょっと話があるんだけど」と裕二が言い出し、くいくいと指で招く。
な、何か助かった??
「ごめん、ちょっと」と言い立ち上がると、裕二は俺の腕を引っ張って喫煙ルームに連れていった。
てか相変わらず、図ったように社員が居ないのは何故なんだ。
裕二が何を言い出すのか分からず大人しくついてきたが、喫煙ルームに入るなり裕二は開口一番に
「今日、心音ちゃんと会う約束をした」
と、一言。