Fahrenheit -華氏- Ⅱ
コナン・ドイル?昨日言ってた参考書ってこれ?
「コナン君に頼るってワケ?」
思わず聞いてしまうと、本に集中していだろう瑠華は、それでも俺の声がしっかり聞こえたようで顏を上げた。
「コナン君?」と瑠華が目をまばたく。
コナン君を知らないなんて、瑠華もまだまだ、モグリだな。ちょっと優越感??みたいな感じで
「じっちゃんの名にかけて!」俺が名台詞を口にすると
「それは金田一少年では?」と瑠華の突っ込みが入った。さらに追加で「真実はいつも一つ」と手直しが入る。
何だ…知ってるじゃんよー……といじけてみせる俺。その横で瑠華は俺のいじけてる姿なんてお構いなし、と言った感じでパラパラとページをめくっている。
横目でちらりと覗いたが、当然全部英語でしかもみっちりとページに字が埋まっている。見ているだけで頭が痛くなりそうだ。
「コナン・ドイル好きなんです。これはジュニアハイスクールの入学の際、父におねだりして買ってもらったものなんです」
瑠華は小説のページを閉じると、きゅっと胸の中で大切そうに抱いた。
よっぽど好きなのだろう。コナン・ドイルも、瑠華自身のお父さんも―――
「俺あんま詳しくないけど、あれ知ってるよ?何とか特急の殺人」
「“オリエンタル急行の殺人”でしたら、アガサ・クリスティです。因みにコナン・ドイルはホームズを生み出しましたが、アガサはポアロです。彼女の本も好きでもちろん家にもありますけれど、間違えないでください」
と、ミスを指摘される俺。瑠華の突っ込みは「ミス・マープル」並だ(←そこは知ってる)
でも何て言うの??やっぱこの感じイイ!!瑠華はこうじゃなくちゃね!!
「でも……引きませんか?ジュニアハイスクールの入学の際におねだりしたのが、コナン・ドイルの本だったと知って。頭でっかちのカタブツで、つまらない女だと」
パラパラと本のページをめくりながら瑠華がちょっとだけ悲しそうに笑う。
「何で?引かねぇし。逆に瑠……柏木さんらしいな、って感じで」
いしし、と笑うと瑠華も笑った。いつも会社で見せるちょっとした微笑じゃなく、本当に明るく。
佐々木が戻ってなくて良かった。
この笑顔を会社で独り占めできる俺、やっぱ幸せ。