Fahrenheit -華氏- Ⅱ


村木は「銀座」と「料亭」と言うキーワードを口にしていた。向かう場所は銀座の料亭と言うことだ。


でも銀座に料亭なんてわんさかあるし、特定するのは難しい。先回りして張り込みたかったが、後を尾けていくことしかできない。


村木は広尾駅から東京メトロ日比谷線・北千住行に乗り、俺も慌てて後を追った。こう言うときって、交通系IC電子マネーカードって役立つな。初めて使ったけど。


もちろん同じ車両と言うわけには行かないから、隣の車両の…それも連結部分近くで身を潜ませて。


幸いにも……てかいつもこんな感じ??俺はあまり電車を利用しないから、意外に意外、時間帯のお陰もあって人が多い。これなら早々尾行に気付かれないだろう。


それでも万が一のことを考え、何でもないように持っていた経済紙を広げて読んでるフリをしながら、横目でちらちらと隣の車両の様子を窺う。


見つからないように気を付けているつもりだったが、村木の方は心ここにあらずと言う感じで周りを気にした様子もない。ただぼんやりと変わり映えのしない外の景色を眺めている。


何だろう……


違和感。


後ろ暗いことする人間ってもっと不審な動きをする……もしくはもっと周りを気にするかと思いきや、村木はそうでもなさそう。


或いは慣れてる?


瑠華に電車に乗った旨をメールすると、彼女はタクシーで銀座に向かうと言う。地下鉄もタクシーもほぼ同じ時間に到着できる。後は気付かれないように村木を尾行して料亭を突きつけられれば、瑠華に再びメールを送って合流できる。


夜の銀座は賑やかで華やかだ。


高級クラブや、料亭なんかが立ち並び、道行く人々もどこか高級感を漂わせている。あらゆる色で溢れかえったネオンの中、村木はほとんど迷うことなく足取りを進めていた。


平日の夜だと言うのにさすが歓楽街なだけある。多くの人で賑わっていて、俺は村木の背中を何度も見失いそうになったが、やがて村木はビルの一角にある店へと入って行ったところをきっちり見届けた。


漆のような黒い壁はけばけばしくなく、上品な佇まいで白いシンプルな看板に黒字で「料亭 華響」と毛筆体で書いてある。


料亭、と言うよりちょっと高級感のある小料理屋みたいだ。


『華響』何て呼ぶんだろう……。そのすぐ隣に入口だろう、これまた寄木細工のような洒落た扉があって、俺はすぐさま瑠華に店名と大体の所在地をメール。


村木の後にすぐ続いて店に入りたい衝動を堪えて、五分ほど置き、緊張で高鳴る心臓を何とか宥めながら俺も入店した。


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