Fahrenheit -華氏- Ⅱ
そもそも女性の方もあたしに話を聞いて欲しいと言う感じだった。あたしが問いかけた言葉に、不審さも現さず額に手を置いたまま苦笑。
「実は、今日、父親に付き合ってる彼氏を紹介したんです。結婚する報告に」
「まぁ、それはおめでとうございます」
「全然めでたくないわ。父は私の彼を認めてくれないの。
あ、彼ね……絵で食べていきたいって言う夢があってね、個展なんかも開いてちょっとだけ売れてるんだけど、普段は絵画教室のアルバイト講師してて、そんな不安定な職業の男と娘を結婚させられない、って」
と自嘲じみて説明をくれた。
「それは……お気の毒に」
と言うしかない。
確かに絵画教室のアルバイト講師じゃ先が見えないし、生活が不安だ。
「でもね、私だって一応大手に勤めてるし……まぁ父の勤めてる会社に比べたら比べ物にならないぐらいだけど」
と言って挙げられた名前は某有名電気メーカーの会社だった。神流グループに比べたら確かに規模は小さいけれど、それでもちょっと凝ったCMをテレビで見たことがあって知ってる。彼女はどうやらそこの総務部で事務職をこなしているようだ。
父親がどこで働いているのかまでは分からなかったけれど、知ったところであたしに何もできないし、敢えて聞かなかった。
「夫婦共働きなんて普通じゃない?私も彼も、もう30よ。結婚を考えるのが自然じゃない?それを頑なに認めない、って。
まぁ私だって分かってるんだけどね。そんないつまでも夢みたいなこと言ってる彼の方にもちょっと……いやかなり?問題があるけど…
売れる画家がホントに一握りだってこと分かってるけど。私も彼も……でも捨てられないものはしょうがないじゃない。
それに今は男だけが大黒柱にならなきゃいけないってルールもないでしょ」
あたしは女性の話に頷いた。けれど同意できる部分とそうでない部分が混在して頷きは曖昧なものになった。
確かに夢を追うことは大切なことだけど、現実問題それだけじゃ食べて行けない。父親の心配も分かる。父親にとって彼女は可愛い娘に変わりがないのだから。
逆にそれだけ愛されている、と言うことも分かった。
たぶん、女性の方はそれに気づいていないだろうけど。敢えてそのことは口にしなかった。そうゆうのはほとんど他人のあたしに聞かされるより、自分で気づくものだ。
「それに父は同じ社内に私に紹介したい男性が居る、なんてあの場で言い出して。
紹介したい男って誰!それってお見合いってこと!?
今まで仕事仕事で家庭を顧みず、小さい頃、私の誕生日ですら午前様だったのに!
今更父親面!?それともその男と結婚したらあの人の地位が安定するから!私は出世の道具じゃないのよ!」