Fahrenheit -華氏- Ⅱ
*Side Ruka*
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村木さんが居るであろう個室の一部屋から女性が出てきた。年齢は啓より少し上に思えた。恐らく30前後。
あたしは啓に断りを入れて、彼女が入ったであろうお手洗いに向かった。
お手洗いの扉もお店の入口のように洒落た寄木細工で、それを開けると黒ベースに白のマーブル模様を施した大理石風の床に洗面台が二つ、個室が二つあった。その一つが赤い「使用中」になっていて、あたしは空いたもう一つに入ることなく洗面台の鏡に向かって髪や化粧を直すフリ。
程なくして使用中だった個室から先ほど入っていった女性が出てきて、ちょっと危うい足取りで何とかあたしが使っている隣の洗面台で手を洗うと、盛大なため息をついた。
「どうかされたのですか?」
思わず声を掛けていた。
声を掛けるつもりはなかった。けれど顏は赤いし、若干フラついてるし、お酒に酔っているのだろうか、心配になったのだ。
女性はあたしに声を掛けられたことに一瞬驚いたものの、すぐに無理やり苦笑いを浮かべる。
「ちょっと酔っちゃって」
「誰か人を呼んできましょうか」
「いえ、いいの。部屋に戻ればツレが居るし」
女性はあたしの提案を受け入れず、かと言って部屋に戻る気配も見せずに洗面台に背を向け、その台に腰をもたれさせると額に手をやった。
「……やんなっちゃう」
と呟いた言葉は独り言なのだろうか。でもはっきりと聞いてしまったし、何より深刻そうな顔つきで吐き捨てるように口にした言葉に無視はできず
「何かトラブルでも?」
と聞いていた。