Fahrenheit -華氏- Ⅱ
慌てて顔を引込めようとしたけれど、梨々花と呼ばれた女性があたしに気づき、つかつかと迷いのない足取りで向かってくる。その背後に、やはり引っ張られる形で男性がついてきて
「ごめんなさい、あなたのアドバイス無駄になっちゃったわ」
と、眉をしかめて頭を下げる。
「……い、いえ」
何と答えて良いのか分からず啓の意見を仰ごうと前を向くと、啓は『おしながき』と表記されているメニュー表で顏を隠しながら「追い払って」と口パクで答えが返ってきた。
追い払え……と言われても…
とりあえず何か……何か言わなきゃ、と思ってる傍から
「梨々花!」
と梨々花さんと同じトーンと喋り方で村木さんが登場して、隠れる間もないあたしを視界に入れると、びっくりしたように目を開き、体を硬直させた。
あたしだって突然の出来事に驚きを隠せず一言も発せない。一応変装はしているものの、
「……か、柏木補佐…」
やっぱりバレるわよね。
「それに……」と村木さんは必死にメニュー表で顏を隠している啓にもすぐに気づき
「神流部長!?」
「お父さんの知り合い……?」と梨々花さんがあたしに不信感のある視線を向ける。
何だか変な誤解をされているようだ。
最悪なタイミングで最悪なバレ方をしたあたしたちは
何も言葉を発することが
できなかった。
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