Fahrenheit -華氏- Ⅱ
サイアク
と口の中で唱えて、けれど口にしてこの最悪な事態が収拾できるのならいくらでも言葉に出す。
だけどいくら呪文のように、あるいはまじないのように?唱えたって目の前の現実は俺たちを無視して過ぎ去ってはくれない。
何てこった……
村木は役員たちを招集して密談、なんかじゃなく―――父親と娘の家族会議だったなんて!!
しかも娘?の方は何か変な勘違いをしているのだろうか、俺たちにも険のある視線を寄越してきて
「あなたたち、父とグルだったの!?」
と怒鳴る。
「梨々花、止めなさい。彼らは関係ない。偶然居合わせただけだ。お前の勘違いだ。
柏木補佐に何て無礼を……、謝りなさい」
と、村木が梨々花と呼ばれた娘の腕をちょっと引っ張り、俺はその意外過ぎる発言に驚きを隠せないでいる。
だってあの村木が!?って感じだし。
「柏木……補佐…?」梨々花と呼ばれる娘が口の中で小さく復唱して
「わたくしが柏木です」と瑠華が軽く手をあげた。それでも疑わしそうにしていたからだろうか、瑠華はバッグから革張りの名刺ケースを取り出し、中から一枚を引き抜き梨々花と呼ばれた女に手渡した。
「必要ならば社員証もお出ししますが」
と言われた娘の方は、瑠華の冷静な応対に少し頭が冷えたようで
「いえ、結構です……」と小さく頭を下げる。
「す、すみませんでした」と何故か娘に引っ張られる形でついてきたひ弱そうな男がぺこぺこ頭を下げる。
「いえ、こちらこそ驚かせるようなことをして申し訳ございません。実はわたくしたちはお父様と同じ会社の者でして、決して怪しいものでも、お嬢様の結婚話を邪魔する為に来たわけでもありません」
瑠華が丁寧に説明をして、ここに来て変な言い訳は通用しない、と踏んだ俺はその後を引き継ぐ形で俺が村木の電話の内容が気になったから、こっそり後を尾けてきたことをあっさり白状すると、娘の方はその内容にびっくりしたように
「お父さんが、密談!?」
「密談なんてとんでもない。梨々花、とりあえず今日は帰りなさい」
「そうよ、梨々花。タカシくんも、ね。また改めて話し合いましょう」とここになって梨々花嬢の母親らしき女が登場。
女もののバッグを二つと、ビジネスバッグを一つ。どうやら飛び出る形で出てきた梨々花嬢と村木の持ち物を慌てて持ってきたようだ。
年齢は村木と同じぐらいに思えたが、上品で清楚な雰囲気。
梨々花嬢はどうやら顔形は母親似だが、性格は父親似のようだ。
疑いようもなく、間違いなく父娘だな。