20円から始めませんか
春の柔らかい風を窓から感じる。


短大を卒業してから幾日も経たない俺も社会人の仲間入りだ。

正直なところ何ヵ月耐えれるかわからない。
五月病って言葉もあるし。
ま、誰しも若いうちは人の世の荒波に揉まれなさいってね。

明日から初出勤だし、恥ずかしいことにならないよう準備だけはしておかなくては。


俺はカバンの中身を一度外に出してから荷物を確認した。かれこれすでに三回目なのだが。


何回も確認しただけあって完璧だ。
我ながら準備の良さに惚れ惚れするな。


リリリリーン


レトロな着信音が六畳一間に鳴り響く。

母さんからだ。


「もしもし、母さんだけど。準備はできてるの。忘れ物ない」

「大丈夫だよ。もう何回もチェックしてるから」

相も変わらず心配されっぱなしか。
小さい頃から忘れ物が多かったから、仕方ないっちゃそうだけど…。

「俺も社会人になるんだからさ、そんな世話を焼いてくれなくても」

「バカだね、心配するのが親ってもんさ。あんたがそう言うなら信用してやるけど」

あっさりした会話だ。でも、親の温かさを感じれた気がする。

「時間つぶしにでもコンビニに行ってくるよ。立ち読みしてる間に忘れ物も思い出すかもしれないし」
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