ささやかではありますが







「あのね、今帰ってきたら、窓にでっかい蛾が張り付いてたんだって!」







あたしは出かけた溜息を、ぐっと飲み込んだ。


「……椎名さん、虫嫌いなんですか?」


こっくん、と大きく頷く椎名さん。


「あたしに追い払え、と?」

「だって華なら、虫平気そうだし」


おいおい、女の子に向かってその発言はどうなんだ?
確かに虫くらい退治できなきゃ、一人暮らしは勤まりませんけど。



仕方ないから、あたしに隠れるあたしより二回りは図体のでかい椎名さんを連れて椎名さんの部屋に行き、蛾を追い払ってあげた。


「すげぇ!流石田舎育ち!」

「喧嘩売ってます?」


椎名さんは、「なんで?」って、あたしの意図すら全く理解していない。
正真正銘、筋金入りの天然だ。


「や、でもありがとうマジで!」

「いーえー。じゃ、お休みなさい」


あたしがそう言って自分の部屋に戻ろうとしたら、「待って!」と椎名さんに呼び止められた。


「まだ何か?」

「あの、来週の日曜って仕事休み?」

「…休みですけど…」


すると椎名さんは「良かった!」って言って、


「来週の日曜、俺ら、ライブやんの。もし良かったら、観に来ないかなぁって思って…」


一番最初に「肉じゃがってどうやって作るんですか?」って聞いてきた時みたいな照れた顔。
やっぱり、なんだかんだ言ってもこの人は可愛いな。


「是非、行かせて下さいね」










けど、あたしは信じない。
日曜、椎名さんに「ここでライブやるから」って教えて貰った日本武道館でギターを弾いてたあの超絶かっこよくて麗しい人が、あたしの部屋の隣に住んでるあの情けない椎名さんと同一人物だなんて。
ええ、誰が信じられるかっつーの!




END.
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