ささやかではありますが
深夜のマックにて
我儘―。最後に智(とも)に言われた暴言はそれだった。
“瑞穂(みずほ)は我儘だ”。つんざくように、智の声が耳の中で何度もこだまする。
それがまた的を得てるから、私は頭にきて、黙って智の部屋を後にした。現在の時刻は深夜1時半。




当たり前のことながら、終電がないから自分の家には帰れない。
こんな時に助かりますは駅前の24時間営業のマクドナルド。
紅茶ひとつ頼んで席に着くと、周りはカップルとか物書きしてる人とか騒がしい学生達とか、水商売風のお姉さんとか。
明らかに私は場違いで、いや、場違いではないけど「フラレマシタ」みたいな雰囲気が隠せない感じ。
勿論そんな私になんて誰も気付かなくて、それが一層孤独へ陥らせる。
独りぼっちの24時間営業のマック。




携帯を見る気にもなれず、少し伸びた爪をいじりながら紅茶を啜る。
智がホームステイから帰ってくるから。智がフランスから帰ってくるっていうから、私はきれいにネイルも塗り直したし、新しい服だって買ったし、髪型だってちょっとだけど、変えたんだよ?
大学の友達もバイトの仲間も、「きれいになったね」って言ってくれた。
なのに、智がそれに全然気付いてくれないから。
それに対して怒るのの、何が不条理なの。
みんな、智の為にしたことなのに。
自分が空回りしてるみたいで、泣けてきた。
テーブルに顔を伏せて、声を立てずに泣く。
大丈夫、誰も気付いちゃいない。
誰も私なんか見ちゃいない。
そう思ったら、逆に安心できて。






「お前さあ、こんな時間にこんなとこで泣いてたらいかにも『男に捨てられました』みたいな感じだから!」




その声に、ぴくりと肩が震えてしまった。
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