ささやかではありますが
夕立
突然降り出した激しい夕立が窓を叩いてる、その音に気付いて、あたしはパソコンの前から立ち上がって急いで洗濯物を取り込んだ。
ベランダに出て、湿りかけの洗濯物を物干し竿の端からかき集めてたら。


「……拓也(たくや)…?」


道の向こうで、はっきり存在感を示す人物。
それはあたしが拓也の彼女だからそう感じるのか…いや、身長180cmを超える拓也の存在感は惚気云々を差し引いてもあまりに大きすぎると思う。
拓也は傘もささず、のうのうと歩いてる。
ウチに来るなんて聞いてないぞ。
確かに先週、今日があたしの休日であること、そして別段出かける予定もないことは拓也に申告済みだ。
でも、拓也は「俺、その日出張だわ」って申し訳なさそうに言った。
あたしは「会いたい」だなんて一言も言ってない、けれどあたしが「休みなんだよね」って言うということはつまり「拓也に会いたいな」という意味合いを含有していることを、拓也は熟知している。
そんな訳だから、拓也がこうしてあたしの家に向かって来ている、この現状には、うん、かなり驚いた。
徐々にあたしの家との距離を縮める拓也に、あたしが家の中から「拓也!」と叫ぼうと思ったその矢先、拓也があたしの部屋を見上げた。
そこであたしの存在に気付いたようで、


「……咲希(さき)!」


ぱっと花が咲いたように笑って、あたしの名前を叫んだ。







「なんで傘、さしてないの!?」


バスタオルを手に部屋の鍵を開けてあげると、案の定拓也はずぶ濡れで、たちまち玄関の前には水溜まりができた。
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