君がいるということ。
3
「助けて……」
気分が最高潮に達する昼休み。
弁当を早々とたいらげ、話が盛り上がりの坂道をまっしぐらに上っている最中、詩花は一瞬で顔の筋肉を全て緩くした。変に力が入ると言うより、何とも言えない脱力感にみまわれたからだ。
そんな人形のような詩花の顔面から発せられた消えそうな声を、碧と優は不思議そうに見つめ、老婆のように動く詩花の指の先に目を移した。
「詩花! ちょ! 急用!」
そこには、臣が足踏みをしながら廊下の一組の方向と詩花を交互に見ている。
「なになに!? 昨日言ってたのはこういうこと!」
即座に碧と優が食らいつく。
「うちらの知らねー間に……。詩花ずるいわー」
「野犬に懐かれたようなもんっす……。まじ助けてくれー……」
無視をしようと取り繕うが、臣の、「詩花!」と呼ぶ声は一向に止まる気配がない。
いつの間にかクラスにいる男女全員に注目され、黙っているのが辛くなってきた。
女子はあることないことをブレンドし、噂話に花を咲かせ、男子は男子で、二人の関係を模索し始める。
「あーもー! 恥ずかしーじゃねーか! 何なんだよおめーはよ!」