君がいるということ。
一番窓側の席ゆえの詩花の大きな声は、一気に教室中に響き渡り、詩花の背後にある窓が小さく振動するようだった。
「だから急用って。ちょっ……あーもーだめだ。中はいる!」
臣は相変わらず廊下の向こうを気にしながら、足踏みしていた足を前へと突き出してきた。
「詩花。頼みがあんだけど」
「誰かー……助けてー……」
「まじ聞いてよ!」
ずずいっと近づき、小声でも聞こえるほどの距離まで到達すると、臣は両手をあわせ、詩花より頭一つ分ほど高い位置にある顔を詩花の目の前までおろした。
「たのむー!」
もちろんクラス中がこの騒がしい状況に釘付けになっており、詩花の思考回路を鈍くさせている。
「何? ってか離れて」
「よっしゃせんきゅ!」
「まだ聞くって言ってな……って、てめえ何やってんだよ!」
詩花の声を聞いているのかいないのか、臣はたまたま空いていた詩花の後ろの席の机を動かし始めた。
「これが詩花の席だよね?」
詩花の机を指差しながら優と碧に聞き、二人が頷くのを見ると、それを90°回転させ、先ほどの机と向き合った形でくっつけた。