君がいるということ。
「詩花! 今日こそ歌って!」
五組に到着するや否や、臣は一番向こうに見える詩花に手を振る。
しかし臣のクラスとは違い、まだHRをしている五組では、臣の存在はまるで映画に突然3Dが出てきてしまうほどに浮いていた。
「おい、竹中。おまえ目がねーのか。あっち行ってろ」
それを見逃すわけにもいかず、片桐先生は笑いながら臣を追い払った。
臣はその言葉通り大人しく後ろに下がるが、ドアの隅から顔だけ出して、ジッと教室を見つめている。
「どうにかしろよ。おまえの旦那。最近毎日あんな調子じゃねーか」
碧が後ろを振り向き、詩花に耳打ちをする。
「誰が旦那だよ! ペットだペット。ポチとでも呼んでやれ」
「でもさー。ポチ君が来るのが面白いのか、最近片桐センセーやけにHR長いべ? 迷惑っつうか何てゆうか……」
碧は、「お手って言ったらやる感じ?」と右手を詩花の手に乗せて笑う。
詩花がそれを聞いて振り向くと、“待て”の雰囲気でじっと構えている臣と目があった。
臣はそれに気付くと、手を降り始めた。
詩花にはその手がしっぽのように見え、憎たらしい臣が少し可愛く感じた。