君がいるということ。
片桐先生の「じゃ。今日は終わり」と言う言葉を機に、教室中が一気に動き始める。
もみくちゃになった状態で臣のことを見るのは不可能になり、詩花は机を後ろに下げ始めた。
しかし身が軽やかな臣は人波みや動く机の間を簡単にすり抜け、机を運び終わって碧と優と話している詩花の目の前に現れた。
「こんにちは。坂岸さんっしょ?」
臣は詩花と二人の間に割り込み、優に向かって微笑んだ。
「おー。よく覚えてんね。詩花、いい旦那じゃん」
「ペットですよペット。ってかその固定概念はポイッと捨ててくれ」
しかし臣は二人の会話を聞いていないようで、今度は碧に話しかけていた。
「名前は?」
「国立碧。よろしくポチ君」
「え? 俺ポチなんだ? なんか新鮮ー」
「突っ込まないんだ!?」
臣は自分につけられる初めての愛称に胸をたからせ、そしてその発端が詩花だとすぐに気づいた。
「何でポチなん?」
優と話している詩花の頭を掴んでグルッとまわし、自分の方を向かせる。
「ペットって感じだから」
詩花は自分の頭よりも大きな手に不機嫌になりながら、短く答えた。