桃染蝶
涙を流しながら正二は、自分の
両手を見つめた。

この手に、俺が掴んだもの

俺のこの手から滑り落ちたもの

全てを選択したのは、この俺。

これは、俺自身が選んだ結果

愛する気持ちよりも、憧れの
気持ちの方を優先した。

俺は、花夜子の死を受け入れ
そして永遠に花夜子の亡霊と
共にこの世に生き続ける。

愛するおまえなら、どんな姿
でもいい。

「ねえ、傍に居てよ?」

地面に座りこんだ正二は
閉まった店のシャッターに
凭れかかり、しな垂れる。

金曜の夜、酒に酔い、賑わう
街頭に涙を流す、正二だけが
浮いている。

「寂しいだなんて

 俺が想っちゃいけねえ」
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