龍とわたしと裏庭で②【夏休み編】

和子さんが浴衣を着せてくれた。


浴衣なんて何年ぶり?

ううん

たぶんママが亡くなってから初めて


しかも既製品じゃなくて、彩名さんに連れて行ってもらって呉服屋さんで仕立てた物。

上から下まで一セット揃えたらびっくりするような金額になった。


彩名さんは

「いいのよ、どうせ圭吾が払うんだから」

って言った。


圭吾さんに買ってもらうってのも気が引けるんだけどな

でも、憧れのキレイな浴衣はとっても嬉しい


「志鶴さま、もう少しじっとしていて下さいまし」

和子さんがお小言を言ってからフッと笑った。

「芙美子さま――お母さまもじっとしていられない方でしたけれど」


そうか、和子さんはママと貴子伯母さまの乳母だったんだっけ


「ママも和子さんに浴衣着せてもらった?」

「ええ、何回もお着せしましたよ」

「そっか、和子さんに着せてもらってなんか嬉しい」

「わたくしも嬉しゅうございます――さあ、できました。圭吾さまに見せておあげなさいまし」


走り出したい気持ちを抑えて居間に行くと、圭吾さんはにっこり笑った。

「かわいいね」


それだけ?

どうせわたしは『かわいい』が精一杯よ


< 82 / 86 >

この作品をシェア

pagetop