君しか愛せない


「放っとけばいいだろ」

「そうそう。本当に気にしないでね」

「ありがとう、小春」

そう言って小春の頭を撫でる木下を見ていると、言い様の無い嫉妬心が湧いてくる。

やめろ。

触るな。

小春は俺のだ!

気を抜いたら口にしてしまいそうで……。

喉まで出かかった言葉を飲み込み、唇を噛み締めると「着替えてくる」とだけ告げて階段へと足を踏み出した時。

「あ、先生、あの……よかったらお兄さんって呼んでもいいですか?」

そんな突拍子もない台詞に思わずこめかみが引きつる。

誰がお兄さんだって?

相手が木下でなくても、小春の彼氏という肩書きの男に兄貴なんて呼ばせるものか。


「お前に兄貴なんて呼ばれる筋合いはない」

「葵兄までそんな冷たいこと言わないでよ!」

履き捨てるように言い残すと、キャンキャンと喚く小春を振り返りもせずに、今度こそ自分の部屋へと駆け込んだ。

「ちくしょ……ッ!やっぱ、他の男になんて渡したくねぇよ……!」

乱暴にドアを閉め、鞄を放り投げベッドに身を沈める。

小春にそんなつもりはないだろうが、2人の仲を見せ付けられるのは想像以上にこたえた。

手はつないだのか?

キスは?

その先は……?

考えただけで気が狂いそうになる。

「いっそのこと、俺のモノになっちまえばいいのに……」

どんなに願ってもそんな日が来るはずもない事は百も承知。

行き場の無い想いを抱え、ただ深く枕に顔を埋めた。


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