KYOSUKE





もう…


後戻りはできひん。






「―――っん!!」


河野さんは俺の下で暴れたが、俺が強引に舌を侵入させると、やがて彼女は暴れるのをやめて、震える手でそっと俺の胸を押し戻してきた。


彼女の口腔内で彼女の舌が逃げ惑うように暴れていたが、俺はその舌を捕らえ強引とも呼べる舌の動きで絡ませた。


角度を変えて、何度も口付けを重ねると、その腕もだらりと床に落ちる。


口付けを交わしながら、俺は最低なことを考えていた。


お嬢の唇も―――こんな風に柔らかいのかな。


こんな風に甘い香りが香ってくるのかな―――と……


僅かに唇を離すと、彼女は呼吸を取り戻すように激しく咳き込み、やがて空気を取り込むように喘いだ。


ぎゅっと閉じられた目尻に涙の粒が浮かんでいる。


そこでようやく俺は―――自分が何をしようとしていたのか気付いた。


強引に女の子を押し倒したのなんてはじめてだ。


困惑した気持ちと、何をやっているんだ!という冷静な自分が混在して…それでも俺は彼女の目元にそっと指を這わせ、涙を拭った。




「ごめん。俺が悪かった」




小さく謝った言葉は、狭い部屋の中で弱々しく響いた。


河野さんの上から体を退けて、俺は彼女の肩を抱くとそっと彼女を起き上がらせた。


河野さんは目に涙を浮かべ、倒された拍子に乱れた髪にちょっと手をやり俺を見上げてくる。


自分が何をやったのか冷静に自覚しているのに、俺の中で消化しきれてない怒りがまだくすぶっている。


これ以上河野さんとは一緒に居られない。


次は本当に彼女を傷つけてしまいかねないからだ。


「ほんまにすんません。俺、帰るわ」


河野さんの顔を見ずに、立ち上がろうとしたとき、彼女の手が俺の腕を掴んだ。


俺がゆっくり振り返ると、彼女は涙を溜めた目で俺をまっすぐに見上げてきた。






「謝るのはあたしの方。




ごめん、鷹雄くん」







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