はぐれ雲。
<リサを亮二から守るには、あいつをこの世から消すしかない>

今度は前田の方が身を乗り出してきた。

「本気かい」

「もっ、もちろん」

男がレンの瞳の奥を探る。

隠した恐怖心を見破られまいと、彼は目の前のコーラに視線を落とした。

すっかり炭酸がぬけてしまい、黒いただの砂糖水になっている。

「言っておくが…私は君にそのことを『依頼』した覚えはないよ。君が言い出したことなんだ」

「わかっ、わかってるよ。
ただ、亮二の情報はあんたのほうがよく集められるだろ?どういうスケジュールとか…
どうやって仕入れてるのかわかんねぇけど、よく知ってんじゃん。だから、そういう面で協力してくれたら…って。あと、成功した後の俺のアリバイ証言とか、逃走の準備とかいろいろとさ…」

「……」

テーブルについたグラスの水滴をこまめに拭きながら、前田が言った。

「失敗しても、私は何の責任も取れないよ。
それは承知してくれないかな」

「え…」

「だが、リサを救えるのはもう君をおいて他にはいないんだろうな。君はリサを心から想ってくれている」

備え付けのペーパーが、この二人のテーブルだけ減りが早い。

前田が事あるごとに使うからだ。

今も、さして汚れていない箇所を何度も拭いている。

レンに協力すべきか、悩んでいるのであろう。
しかし、その姿は執拗、いや異様といったほうがいいかもしれない。

「わかった、君に協力しよう」

しばらくして、彼は言った。

「前田さん…」

「成功報酬として、500万渡す。いいかい、『成功』報酬だからね。
リサを二度と新明に会わせないようにしてくれ。絶対にな」

目の前の男は、亮二の息の根を止めなければ金は渡せない、と遠まわしに言っていた。

レンは唾を飲む。

ゴクリとやけに大きな音がした。

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