はぐれ雲。
「行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

達也が玄関で靴を履いていると、チャイムが鳴った。そして鉄の扉をドンドンと荒々しく叩く。

博子は恐怖を感じた。

「俺が出るから、奥に入ってて」
達也は小声で言うと、ドアを開けた。

「あの!」
激しく息を切らせた、金髪の派手な格好の男が立っていた。

「ひ…博子さんは…!」
そう言って、男は部屋の奥をのぞこうと背伸びをした。

それを遮るように、達也が前に立ちはだかる。

不審な目でその男を見ると、「君は?」と尋ねた。

「お、俺は…その、なんて言うか…。
博子さんに会わせてもらえないっすか?」

「君が誰だかわからないのに、会わせるわけにはいかないだろう」

「そんな!ちょっとでいいんです。
博子さん!いるんでしょ!俺と一緒に来てください!」

「やめるんだ!近所に聞こえるだろ」

達也が男の肩を強く押した。

「…浩介くん」

その時、博子が部屋の奥から顔を出した。

「あの!一緒に来てください!
最後にちゃんと亮二さんと話をしてください。亮二さん、もう…」

「君は、新明の?」
浩介の肩をつかむ手が緩み、とまどったように達也は彼を見た。

彼は達也と博子に向かって、頭を下げる。

「このままだと、亮二さんも博子さんも、あの時と一緒なんだよ!同じ事の繰り返しになっちまう!それでいいはずないだろ?
博子さん、あんただって苦しかったんだろ?亮二さんも同じように苦しんでたんだ。
そばで見てて、辛かったよ。
あんな亮二さん、もう見たかないよ。
だから、最後くらい…
最後くらいあの人に、ちゃんとさよならって言ってやってくれよ!」

< 337 / 432 >

この作品をシェア

pagetop