NAIL
「それ!」

「え?」

「美知子さんは笑っていた方が、絶対良いよ」

 帰りは彼がマンションまで送ってくれた。最後に『楽しかったよ。また今度、食事に付き合ってね、美知子さん』という言葉を残して去って行った彼の背中を、美知子はいつまでも見つめていた。

 ああ、こんな事ってあるだろうか。まるで夢のようだ。いや、夢の世界に居るようだ。

 夢見心地のまま部屋へ戻り、自分の顔を鏡に映してみる。特別変わった所は見受けられない。だが、綺麗になったと言われれば、確かに綺麗になったのかも知れない。 角度を変え、ポーズを変え、美知子は自身の姿を映した。

「あっ、やだっ!」

 頬に手を当てたポーズを取った時、ほんの少し欠けたネイルが目に入った。早速明日ネイル屋に行って、新しいネイルにして貰おう。今度は何が良いだろうか。

 美知子は夢見心地のまま、明日のネイルを夢見て、本当に夢の中へと誘われて行った。
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