それでも君が。
温かい身体から離れ、晴君の顔を見上げる。
彼は私を見下ろし、微かに眉を寄せた。
そして、少し固い声で言ったんだ。
「そんなこと、ある訳ねぇだろ。蒼汰がお前以外の女に……」
そこまで言って、晴君はその唇を止めた。
何かに気付いたように、とも言える。
「……なに……? 晴君、やっぱり何か知ってるの……?」
「………」
「どうして!? 彼氏の……蒼君のことなのに、どうして私だけ知らないの!?」
言いながら、また鼻の奥がジンとしてくるのが分かった。
でも、本当は、泣きたくないの。
だって、泣いたって何の解決にもならない。
そんなこと、分かってるから……!
「……本当に、何も知らない」
晴君は、何故か少し苦しそうに、喉を詰まらせながらそう言った。
切れ長の目も、少し細められてる。
その中の少し茶色の瞳を見つめる私に、晴君はまた一言。
「ただ、これだけは覚えとけ。アイツは、お前を裏切るようなことはしない。絶対に、羽月のことだけを想ってる」
「……晴君……」
少し濡れた私の頬を、晴君のゴツくて固い指が滑った。