それでも君が。
「……晴斗が怒るとか珍しいな」
フッと小さな笑みを落とし、蒼君は部屋から出ていった。
どれくらい経ったか分からないけれど……
立ちすくむしかなかった私は、晴君の手によって、我に返った。
肩を柔らかく揺すられ、晴君に目を向ける。
「追いかけろ」
晴君の言葉に、私はただ首を横に振った。
追いかけて、どうするの?
きっとまた、拒絶されるのに。
そう言い返したいのに、口から言葉が出てこない。
唇を噛み締める私の背中を、晴君が手でポンとハンコを押すように叩いた。
「いいから、行け。蒼汰を失いたくないなら」
失いたく……ないに決まってる。
蒼君を失うなんて……考えるだけで、怖くなる。
晴君に一層強い力で押され、私は蒼君の背中を追いかけた。