それでも君が。
「どうしてそんなこと言うの!? そ、蒼君が、私に冷めたのなら、仕方ないと思うけどっ……でも、晴君は関係ないでしょ!? 私は蒼君が好きなの! 他の人なんて考えられないよっ!」
一気にそうまくし立てた私をどう見たのか、蒼君は黙った。
彼の胸で止まっている自分の拳を、ギュッと強く握り締める。
玄関先のコンクリートは、私の涙のせいで、一部だけ色が濃くなっていた。
「……蒼君の、バカ……こんなに、好きなのにぃっ……」
「……羽月」
下に向けていた顔を、つい上げた。
──名前、呼んでくれた……!
それだけで、天にも上ってしまいそうな程だった。
でも、そんな浮かれた気分は、次の瞬間にはサッと消えた。
見上げた先にある蒼君の顔。
まるで何かを我慢してるかのように、苦しそうで……。
また彼の名前を呼ぼうとしたけど。
口を開く間もなく、私は彼に引きずられるように、玄関の中に入れられていた。