それでも君が。
バタンッと閉じる玄関のドア。
家の中は真っ暗で、小さな頃から慣れ親しんだ匂いで溢れている。
でも、そんな匂いを感じる余裕なんて、なかった。
握られた手首が、熱くて、ジンジンして……
怖いくらいで。
「蒼、君……」
玄関の土間に跳ね返り、よく響いた私の声に、蒼君は何も反応しない。
私がいる方とは真逆を見ていて、表情さえ見えない。
「蒼君、蒼く……」
「そんな声で呼ぶな」
「……っ……」
「……ごめん」
“言い過ぎた”と言って、蒼君は私を抱き締めた。
フワリと舞った空気には、蒼君の香りが混じっている。
私の、大好きな香り……。
“言い過ぎた”のは、晴君と付き合えば、と言ったことに対してなのか……
それとも、そんな声で呼ぶな、と言ったことに対してなのか。
分からない。