それでも君が。




思わずテレビに目を向ける。





『5月から都内で発生している、通りすがりの女性が、刃物を持った男に暴行されるという事件についてです。この事件は──』





──プツッ──



急に、テレビが真っ暗になる。



後ろを見ると、お母さんがリモコンで電源を消したようだと分かった。





「本当に遅刻するよ。もう行きなさい」





私の顔を見ずにそう言ったお母さんは、リビングのドアを開け、廊下に出ていった。



──まだ、そんな、遅刻するような時間じゃないのに……。




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