それでも君が。
色々大変です。
「羽月、早く準備しなさい。新学期早々、遅刻しちゃうよ」
「うん! 大丈夫だよ」
お母さんは、お弁当を巾着袋に入れながら鼻歌を歌っている。
夏休みになる前までの、いつもの光景。
それをただジッと見ていると、お母さんが気付き、
「羽月、頭痛い?」
と眉を下げる。
私が首を横に振ると、お母さんは微笑み、またお弁当に目を戻した。
「……ねぇお母さん」
「んー?」
「………」
「何よぉ」
「……ん。ごめん。何でもない」
へへっと笑ってみせ、テーブルの上に置いてあるテレビのリモコンを手に取る。
電源をつけると、朝のニュース番組をやっていた。
「……蒼ちゃんとは、結局、会えなかったの?」
台所に戻ったお母さんが、手を洗いながら言う。
私は、何も言わなかった。
「蒼ちゃんも、色々忙しいのよ。分かってあげなさいよ」
「……分かってるもん」
「今日からまた、学校で会えるじゃない」
「ん」
そう返事をすると、テレビの中にいるアナウンサーが、
『次のニュースです』
と言うのが聞こえた。