執事と共にお花見を。
「息子さんのこと、愛していたのね」


唐突な、恵理夜の言葉に、老人は言葉を切らす。


「そして、奥様も、大切に思われているのね」


恵理夜は、いたわる様に木を撫でた。


「だって、毎日見守りに来るくらい、こんなにもこの木を大切にしているんだもの」


この傷は、息子を愛した証だろう。

そして、この木を見守ることこそが、妻を大切に思う証ではないのか――


「息子が生まれて、最初に身長を刻んだ次の年から、この桜は特別な花を咲かせるようになった」


恐らく、傷つけられたことで変異したのだろう。


「家内は、一番美しい色だと笑っていた。息子が死んでからも、この桜を見て微笑んでいた。……どんなに辛くても、あれは人前では泣かなかった」


息子のために、微笑み続けることを誓ったかのように――
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