ももいろ

【裏切】

四月半ば。

店長とはあれ以来、二人きりになっていない。

早紀はずっとお店を休んでるけど、片付けは先輩達が交代で手伝ってくれるようになった。

店長にご飯に誘われたりするけど、先輩方に仕事の相談したりして遅くなるから、って断ってる。

「桃ちゃん、最近冷たいな」

なんて寂しそうな顔を作る店長。

あたしは、それを見て満足する。

避けておきながら、相手にされなくなるのは嫌。

店長、あたしを気に掛けてくれてる。

それだけで、何かが充たされた。



何が?



知らない。



「おはようございまーす」

ある天気のいい朝。

日差しは暖かくて、風は春の匂いがする。

こんな日は、いつもは幸せな気持ちで出勤できるのに、あたしはすごく嫌な気分だった。



なんだろう?



もやもやする。

早紀からまったく連絡がないのが、すごく気掛かりだった。

メールの返信がないことが心配でもあり、勝手とは思うけど少し腹立たしくもあり、寂しい。

その反面、早紀のいない職場に慣れてきてる自分もいた。


入院したり何か重い病気だったら、お店には連絡を入れるだろうし…。


きっと、本当に風邪をこじらせてるだけ、そのうち元気になって出勤するよ。


なんて思っていた。



なのに今日はなんだろう?


なんだか不安で


もやもやして


気を抜くと、おなかが痛くなりそうな



変なかんじ。



すごく、嫌なかんじ。



こういうの、胸騒ぎがするっていうのかな?



朝礼での店長の言葉に、あたしはショックを受けた。

「昨日、本人から俺に直接連絡があった。早紀が、退職することになった」

ざわめくスタッフ達。

胸騒ぎの原因は、これだったのかな、と思おうとしたけど…



ますます不安が大きくなった。



違う、まだ何かある。



そう感じたけど、今はそんなことはどうでもいい、早紀のことが心配だ。

< 103 / 139 >

この作品をシェア

pagetop