【キセコン】とある殺し屋の一日
終章
へろへろになりながら、与一が社に着いた頃には、日は西に傾き、少し涼しい風が吹いていた。
行列の通る大通りは人でごった返していたが、すでに行列も終わったこともあり、社は人もまばらだ。

「ああ、やっぱり流鏑馬は終わっちゃってるわね~。ま、当たり前か。あれは今日じゃないものね」

のほほんと言う藍に、鎮守の森の木に手をかけて、肩で息をしていた与一は、勢い良く顔を上げた。

「はぁっ? だったら別に、ここでなくても良かったんじゃないですかっ」

「言ったでしょう~、ここは祭りの目玉だもの」

ひょいひょいと飛ぶように、藍は本殿のほうへと歩いていく。
が、その足がいきなりぴたりと止まった。

「う~ん、まだ人が結構いるわね。あんまり出て行きたくないかも」

鎮守の森の木陰から、藍は本殿のほうを眺めて言う。
確かに藍は、普段町を歩くときは、笠を目深に被り、顔を曝さない。
派手な顔立ちの藍は、目立ちすぎるのだ。

「でも藍さん、さっきまでは、素顔だったじゃないですか」

「あれぐらいの人混みだったら、返って人の事なんて、見てないものよ」

一理あるが、それは大人しくしていれば、の話だろう。

「そうかもしれませんが、あんなに暴れまくったら、皆振り向くんじゃないですかね」

与一が言った途端、いきなり頬を抓られる。
いつの間に間合いを詰めたのか、藍は与一の頬を掴みながら、ぐいっと顔を近づけた。
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