失ったモノ
「ああ、正直危なかった。強く拒絶しなきゃ、オレも引きずり込まれていた」

そのことを思い出したのか、雨流はブルっと身震いした。

摩耶は聞かない。

『何に』、引きずり込まれそうになったのか。

聞かずとも、ずっとこの場で見てきたので、分かっているのだ。

「そういう摩耶は、ここで死んだんだっけ?」

「そっ。アタシはここから飛び降りたの。だから地縛霊よ」

摩耶はケロっと言った。

「また何で自殺なんかしたんだ?」

「当時、いろいろイヤなことが重なってたの。両親が離婚したり、恋人には振られたり、成績が落ちたり。それでも悩みを打ち明けられる人がいなくて、耐え切れなかったのよね」

強い夜風に揺れる髪を抑えながら、摩耶は遠い眼をした。

「だからアタシは誰にも気付いてもらいたくはない。けど…美羽は違うみたいね」
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