失ったモノ
2人は何も言わず、視線を合わせた。

「…何人かはアイツの声を聞いたみたいだがな」

「聞こえた人はゾッとするでしょうね。亡くなった人の声が聞こえるなんて、怖いもの。普通は」

「そう、普通は、な」

突然、三人目の声が屋上に響いた。

「先生」

「やあ、雨流。まだ留まっていたんだな」

歴史を教える先生が、二人に近付いた。

「先生に言われたくないな。先生だって、病気で三か月前に死んだんだろう?」

「お前さんは一ヶ月ほど前だったな。…美羽くんは記憶の混乱があるようだ」

美羽が生きていた頃に、2人はすでに他界していた。

だがそのことに、気付いていない様子だった。

「突然死の直後って、ああなるのよ。だから自分が死んだことがなかなか理解できない」

「オレ達から説明しちゃダメなのかよ?」
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