男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
男装して、一番初めに収録をした場所がこのスタジオだった。
ことりにとって非日常の始まりの場所ともいえる。
「俺、楽屋行くから。
さっき木村さんにメールしといたし、観覧席まで連れてってもらって。」
「うん、有難う。」
中に入れば、陽の到着を待っていた木村が駆け寄ってきた。
陽にスケジュールの説明を簡単にすると笑顔でことりの方を向いた。
「記憶が無くなったんだって?大変だったね、でも、無事で良かった。」
「は、はい...。」
「今回は特別だよ?会場、こっちだからついてきて。」
ことりは頷き、黙って木村の後を追う。
そんな彼女に陽は何かを言うが、聞こえなかった。
観覧席に入れば、すでに会場は人でいっぱいだった。
どうやら収録は抽選で選ばれた者だけが観覧できるらしい。
無理言って陽に連れてきてもらったことりは少し申し訳ない気持ちになりながらも
関係者席に案内された。
木村が座った椅子の隣に腰を降ろして前を見る。
「今日は、音楽番組の収録。
ことりちゃんもこのスタジオでしたことあるの覚えてる?」
企画書をパラパラとめくりながら木村は話しかけた。
「...なんとなく、だけど。」
曖昧に答えれば木村は そっか と言い優しい笑顔を見せた。