男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


楓は本気なんだ。自分の仕事に誇りを持っている。

だから、嫌いな自分とでも文句言わずに練習している。

ことりは、頬の痛みに涙目になりながらももう一度決意を決めた。

(完璧に、ダンスが踊れるようにしよう)

彼女の目つきを見て、楓は満足したのか解放する。


「...陽君は、僕の憧れなんだから」

「え?」

ぽつりとつぶやかれた言葉は、ことりに届くことはなかった。










それから2時間、心を入れ替えたからか、ことりは急激に成長していた。

なんとか楓のダンスについていけるようにまでなる。

曲が終わった瞬間、ことりはその場に座り込んだ。

「はぁー、はぁー、」

「陽君、このくらいで疲れてんの?」

いつもなら、疲れていても休憩時間も一人で練習しているくらい努力しているのに。

「陽君?」

彼女の頬が赤く火照っていることに気づく。

何処か焦点があわない瞳をしていた。

楓は彼女の視線に合わせてしゃがみこみ、額に手を触れた。


「っ熱」


ことりは熱を出していた。

昨日からずっと無理をしていたせいだろう。

「...家まで送る」

立てる?と楓はことりの腕を掴んだ。

彼女の腕の細さに驚き、目を見開く。

こんなに陽は筋肉が無かっただろうか。

「っ、」

ことりは限界だったのか、その場に倒れ込んだ。

苦しそうな呼吸を繰り返している。

これにはさすがにヤバイと感じた楓が、慌てる。

とりあえず、ここから一番近いリビングのソファーに寝かそうと思い

ことりの体を横抱きにして持ち上げた。

男を横抱きにするなんて、と内心思ったが文句は言ってられない。

持ち上げた瞬間、想像していたよりもずっと軽い彼の体に

楓は目を見開いた。
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