御曹司の溺愛エスコート

事件

桜は泣きながら道を歩いていた。
行き交う人々にじろじろ見られたが、かまわずその度に涙を拭いて歩く。


アパートに帰れば蒼真兄さまが来るかもしれない……。
ハリーの所へ行こう。


仕事先には1週間休みをもらっていたが、桜はアパートに戻らずに書店へ向った。
毎日がアパートと書店の往復の生活。
桜は他に行く所がなかった。


1人だけ親友と呼べるベリンダがいたが、今は大学のセミナーでシカゴにはいない。


20分かけて書店に行ったが、雪の中を傘も差さずに歩いたせいでびっしょり濡れてしまった。


「サクラ! いったいどうしたんだ? 日本に行ったんじゃなかったのか?」


店主のハリーが姿を見せた桜に驚いている。
奥の部屋からタオルを持って来て桜に渡してくれる。


「昨日帰ってきたんです。お金は要らないから仕事させて下さい」


蒼真から逃げるために、ここで時間を潰す。


コートを脱いでエプロンを付けると、桜は本の整理を始めた。


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