御曹司の溺愛エスコート

昔のように

「髪が濡れている。風呂に入るんだ」


蒼真がぼんやりしている桜の髪の一房を手にする。


「お風呂……」


お風呂が何かを忘れたような言い方。


「こっちだ」


桜を立たせると、バスルームへ案内する。
人形のように蒼真の手に引かれて歩く。


「桜、ひとりで大丈夫か?」


覇気のない桜が心配になる。


「大丈夫……」


豪華なバスルームの中に機械的に入った桜はドアを閉めた。


ブランデーのせいで……頭がぼんやりしている……。


服を脱ぎバスタブの中に身体を沈める。
冷え切った身体にじわっと熱さが沁みてくる。


これからどうしよう……。


身体を洗っている途中、ドアを叩く音に気がついた。


「桜!?」


ドアを叩く音にハッとしてかなりの時間が経っていることに気がついた。


「桜! 大丈夫か!?」


めったに大きな声を荒げない蒼真の声が桜の耳に聞こえた。



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