僕の遊びと俺の迷惑
「また面倒臭いものを!」
俺は神経を研ぎ澄まし、それらを避けていく。しかしいかんせん数が多過ぎる。全ては避け切れず、体のあちこちをかすっていく。
「これ結構いいけど、発動中僕が動けないのが欠点だな。魔力駄々漏れ状態だし。」
わざと声に出して技の弱点を言う。迂闊に聞こえるが、それを知ったところで俺は勇者に攻撃を仕掛ける暇が無い。避けることで精一杯だ。
「魔王様結構やるね。あんまり当たらない。少しは貫通とかされてみてよ。」
「無茶言うな!」
叫びながら一閃避けた瞬間、光の球は消え、気づいて勇者の方を振り返る。笑みを消した勇者が剣を振りかぶっているのが見えた。
受け止めようとしたが間に合わない。俺は勢いよく切られ、同時に蹴り飛ばされた。
「魔王様、また油断したね?一応僕敵だよ。もっと気をつけなくちゃ。」
床に転がった俺に勇者はいつものような軽い言葉を、まったく笑みを浮かべずに勇者は言い放った。
確かに最近油断してばかりだ。こいつの前に来た勇者や戦士達には容赦しないでいたというのに。こいつの容姿に問題でもあるのか。確かに決して強くはなさそうだが。
「あれ?魔王様動かないね。死んじゃった?」
コツコツと軽い足音と共に勇者は俺に近づいてきた。腰まである長い髪が揺れているのが見える。
「この程度で俺が死ぬわけがないだろう。」
倒れたままの状態で俺が言い放つと、勇者は息を飲んで後ろに飛んだ。
「お返ししてやろう。」
その言葉に勇者は、困惑しつつも上を見上げた。真っ赤なボール大の球がいくつか浮いている。血のように真っ赤、そう俺の血なのだが。
「まさか…。」
勇者がそう呟いた瞬間、球から鋭く太い棘が生えた。
「ビームとまではいかなかったが。」
そう言いつつ、俺は体を起こした。
「せいぜい楽しんでくれ」
球が一斉に棘を生やす。
「真似しないでよ!」
勇者はそう言いながら避けている。球は勇者の死角に回り込んでは棘を生やす。生やした後に再び球に戻り、再び棘を生やす行為の繰り返し。