僕らのアナザーリアリティ

悲しいヒストリー


三人が目を閉じると、頭の中に映像と声が流れ始めた。


〔この風景が見えているだろうか。広く澄み渡る空と豊かな大地が。〕


三人には見えた。 蒼と白が美しく調和した大空と輝く緑に縁取られた広大な大地が三人にははっきりと見えたのだ。


〔美しいだろう?これはかつての、この世界が無になる前の姿だ。暖かなジエイナの力に包まれ、皆幸せに生きていた。〕


とても、とても大きな木が目の前に現れた。よく見ると、木の近くには沢山の小さな人たちが...いや、人というのは誤解を招くだろう。彼らは正確には人ではない。なぜなら、彼らの背中には透明な羽のような物があり、空中で自在に動き回っていたからだ。


〔彼らは私たちのいわば同胞だ。ここにいるソラン、トルテ、そして私ワイド。我等三人とその木の近くにいる彼らは皆、そこにある木から生み出された存在なのだ。その大木、我らの母なる大木の名こそ《ジエイナ》〕


梨斗たちは息を飲んだ。先程ソランの言っていたジエイナとは、この大木のことだったのだ。


〔《ジエイナ》は自らの根を、そして葉を通してこの世界にエネルギーを送り、満たし、包み、守ってくれていた。もちろん我らもただ与えられていた訳ではない。梨斗たちの住む“あちら側”へ行き、生命が持つ負のエネルギー《ネガ》をジエイナのため運んだ。幸いなことに、我らの姿は一部の者を除いて人間には見えないらしく、頻繁に行き来しても何ら問題はなかったのだ。我らが運んでいた《ネガ》だが、負の感情だと思ってくれればいい。怒りや憎しみといった感情が《ジエイナ》の、いわば養分なのだ。怒りや憎しみを我らに運ばれてしまった者は気分が落ち着き、自然と穏やかになる。こうして“あちら側”と“こちら側”は均衡を保ち、それなりに良い関係を築いていた。ところが、ある日突然その均衡は崩されてしまった。〕


梨斗たちが見ていた暖かな光に満ちた世界から急に光が消え失せ、闇に覆われていく世界の映像が鮮明に流れてきた。そこには暖かな光ではなく、深い悲しみに包まれた世界が広がっていた。

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