藤井先輩の私。
暗い道をずーっと歩くと、前から人が歩いてくるのが見えた。
「坂上…渉?」
坂上渉は、あたしの中学のクラスメイト。
成績優秀、運動神経抜群、眉目秀麗、三拍子整った誰もが認める爽やか美男子。
この男、話すときは、常に標準語。
あ、でもいつもクラスにいるときは、全く口を聞いたことないけど…。
そんな優等生がこんな夜遅くに一体何してるんだろう。
おっと、他人のこと考えてる場合じゃなかった、電車電車!
キャリーバックをごろごろと転がし、足早に坂上渉の隣を通り過ぎる。
「藤井さん?」
背後から声をかけられた。
もう、時間がないっていうのに。
「な、なに?」
振り返ると、高貴な顔立ちの男子、坂上渉殿。
「旅行?…でも明日学校だよね。…もしかして家出?」
「ちゃう、ごめん。急いでるから」
そう言って、足早に駅を目指そうとするが動かない。
「坂上くん、離してくれへんかな」
坂上渉は、私の肩をがっしりとつかんでいた。
「俺一応、風紀委員やねんけど、これ学校に報告したろかなぁ」
……………。
いま、ものすごい聞きやすい方言が聞こえてきたような。
今しゃべったん誰や?
きょろきょろと坂上の背後や、自分の後ろをさがす。
いない。
ってことは…。
「誰探してんの?今話したんは俺や。俺だって学校以外では普通に大阪弁しゃべるから。標準語は学校専用やねん」
もしかせんでも…こいつ…。