ちゆまど―世界は全て君のために―


フルオケでもやるのか数多の楽器が並んでいた。


「それでは本番だ」


タクトをあげたイナディアル。ふと、人なんかいないはずのステージに白い煙が立ち込めた。


ヴァイオリンの弦、フルート、などの楽器が上がる。


「“奈落への鎮魂歌”(アビス・レクイエム)」


タクトを振り下げた、同時に演奏が始まる。


無人の合奏。

しかしてプロ以上に素晴らしく――酷かった。


「ぐ……!」


膝をつきそうになった。頭痛、いや、鈍痛か。


体の力を持ってかれるような虚脱感がありながらも、眼が泳いでしまうほどの混濁。


耳から入る音が、脳を揺るがしていた。


「どうだい?清々しいだろう、僕のレクイエムは!」


「ちくしょうが……っ」


清々しいほどの気持ち悪さだった。


立っていられない。

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