ちゆまど―世界は全て君のために―
「恐らく、バラの手入れ中に葉で切ったのでしょう」
他人事のようだった。
「痛くないのですか」
「人形なもので」
人形。昨日から気になっていたことだ。
シブリールさんはマトリさんとヨーシカさんを人形と呼ぶ。
見た目は人間に見えるのだが。
「“魂無き人形”(マトリョーシカ)どもは、ババアが作った人形なんだ。人間じゃないよ」
補足するように彼は言うが、真実を知ってもにわかには信じられない。
動いているし、喋る。感情は見せないけど、子供と遊ぶぐらいの優しさは持っているんだ。
「立派な人間ですよ。ヨーシカさんも、マトリさんも」
「だからね、ユリウス……」
「優しい想いを持っているならどんな形だって人間です。とても素敵な、ね」