平安異聞録



柊杞も分かってはいるのだ。



この姫の何らかの呪いにより、何故かこの塗籠を捜す気にならない事や、しかし聖凪が気がすんだ頃になると自然と此方へ足が向く事を。



聖凪は本当に手習いを毛嫌いしているのではなく、ただ息を抜く為に、こうして自分たちを動かしているのだ。



息を抜く為に自分たちが遊ばれているのは、大変不本意だが、柊杞は聖凪を愛しく思っているし、尊敬しているのも本当だ。



この安倍の大君は本当に何でもするすると上手くこなす。



正直なところ手習い等必要はないと、女房一同考えていたりもするのだが。



やはり自分が仕える姫だ。どの家の姫よりも気高く、才気に溢れ、美しくあって欲しいと強く思っているからこそ、二条の大殿とこの邸の北の方の意志を女房皆で尊重しているのだ。



主人に対して生意気など言ってはならないが、この少々快活過ぎる姫も普段はとてもしっかり者で周りを気遣う事の出来る方だ。



もう少し大人になってくれれば、本当に仕え甲斐のある最高の主人となるだろう。



その日の為にも精進せねば。



姫様を後ろから急き立てるのも、私の役目だ。



などと意気込んでいる柊杞を聖凪は嫌そうに眺めやる。



これはまた厳しくなりそうだ。聖凪はそう直感し、それは当たっているのだった。



ため息を吐きそうになる聖凪に、柊杞の張りのある声が飛ぶ。



「姫様」



柊杞の目が、「品がないですよ」と言っている。



聖凪は、しょうがないと気を入れ直すしかなかった。



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