ピンクの落書き
「わりぃな。次、これで冷やせ」
渡されたのは、颯お手製氷袋。
「ありがと」
それを薬指に押し当てる。
颯は、隣に置いてあるベッドに腰をおろす。
さっきまでバスケをし、汗をかきまくってた颯なのに…
その髪はすでに乾き、窓から入ってる風に揺れていた。
さらさらで軽そうで猫っ毛の颯。
しばしの時間見とれていただろう。
「髪、染めてるの?」
「いんや。生まれつきの茶色」
前髪をクルクルいじりながら答える。
「翼は?」
「これは染めたの。生まれつきは、てかるほどの真っ黒だったんだよ」
「黒でも似合いそうだけどな。“翼”は」
颯はずるい…と思う。
こんなことをさらっと言うなんて。
しかもね。
“翼”って…
簡単に慣れたように名前を呼ぶんだ。
初めて喋ってから一カ月も経っていないのに。
バスケをしていない颯にも夢中になりそうで…
ずっとその綺麗な茶髪を見ていたいって思ったり…
「なんで、こんなことしてくれたの?」
「俺の目をバカにすんじゃねーよ。翼の指が突き指したくらい楽にわかったっつーの!女の子なんだから、指が曲がると困るだろ?」
「…ありがと…」
ほら。
こういう優しさを持っているんだ。
見た目はチャラらいし、不良だけど、颯はこういう人なんだよね?
出会ってから少ししか経っていないうちが言えることじゃないんだけど…
颯が優しいくらいわかっている。
そこら辺にいるやつらなんかよりも、わかっていたい。