AKANE
 怯えたボリスが全てを言い終わらないうちに、ヘロルドはもう一撃を忠臣の腹に入れた。
「うぐっ!!」
「黙れ、この役立たず! 無能は無能らしく相手に見くびらせて隙をつくという姑息な手があるだろうが。この馬鹿めっ」
 ボリスは歪んだ視界でもう一度頬骨の出た、痩せた主を見上げた。
「いいか、よく聞け。お前がもしその手でクロウを暗殺できたなら、わたしは晴れてこの国の国王だ。そうなれば、お前をわたしの側近にしてやらないでもない」
 ヘロルドが大きな口元を気味悪く引き攣らせると、ボリスはその目を嬉しそうに見つめた。
「ヘロルド閣下! 今度は巧くやります・・・!」



 クリストフは暖炉に火をくべ、温かくて甘いココアのような甘い飲み物を二人に手渡してやった。
「クリストフさん、この家、留守みたいですけど、こんな風に勝手に入っちゃって平気なんですか?」
 朱音は、クリストフがどこからか調達してきた毛布にくるまりながら、湯気の立つカップに口をつけた。
「いいんですよ、彼とはとても親しいんです。こんなこと位で怒るような男じゃない」
 クリストフは、長くカールした睫で一つウィンクし、再び暖炉に木をくべ始めた。
 オレンジ色の炎がパチパチと音を立て、部屋の冷えた空気を少しずつ暖めていく。
 山道を逸れた小さな村は、少し落ち窪んだ場所にひっそりと存在していた。
 こじんまりとした木の家が四軒程建ち並び、三人が入った家はその中でも特に小さな山小屋であった。
< 122 / 584 >

この作品をシェア

pagetop