AKANE
 朱音はとんでもない、というようにぶんぶんと首を大きく横に振った。
「なぜです?」
 クリストフもルイも興味深げに真っ青になった朱音の顔色を見た。
「だ、駄目だよ! だいたい、アザエルは今魔術を封じられているし、フェルデンに直接会うなんてできない!」
 あの優しい目にもう一度憎しみの色を浮かべられたら、もう朱音はきっと耐えることはできないだろう。
「アザエル閣下は魔力を封じられているのですか? それは少々きついかもしれませんね・・・」
 ふむと腕組みをしてクリストフは考え込んでしまった。
「しかし、サンタシの王族騎士に直接会えないというのは・・・?」
 動揺して急に落ち着きをなくした朱音は、被った毛布を無駄に引っ張ったり、乱れてもいない髪を手櫛で整えたりし始める。
「えっと、その、だから・・・」
 そんな主の姿に堪らず、ルイはとうとう口を口を挟んだ。
「サンタシの王子は陛下を覚えていないのです。記憶をなくされたようで、今は敵国としての認識しかありません。そんな相手に、国王自ら近付いて、我国が刺客を送った、などと直接話などできますか? そんなことを言えば、今より国同士の確執は強くなるでしょうね」
「まあ、確かに・・・」
 ルイの機転のきいた嘘に、納得はしていないようだが、クリストフは取り敢えず理解は示してくれたようだった。
 クリストフは、空になった朱音のカップを受け取ると、古ぼけた丸テーブルの上にことりと置いた。
「わたしは無理に全てを聞きだそうとは思いません。陛下が望んだときに話してくださればれでいいですし、話さずずっと心の中に仕舞っておかれるのも自由」 
 驚き見開いた朱音の真っ黒な瞳には、暖炉の火が映り込み、その中でオレンジ色に美しく燃えていた。
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