AKANE
「ただ、一つだけ質問することをお許しください。いつか、陛下は今の自分が自分じゃないと話しておられましたね。陛下、これは自分探しの旅ですか?」
 ルイが見守る中、朱音はしっかり頷いた。
「うん、そうかもしれないね。今のわたしは中身と器がちぐはぐだから・・・、今生きてる意味を探さなきゃ」
 ふっと目を緩ませて、クリストフは笑みを零した。
「それを聞いて安心しました。陛下が望むのであれば、わたしはサンタシの遣いの者達から着かず離れずの距離をとっての旅の手助けをすると誓いましょう」
 優雅にお辞儀をすると、クリストフは静かに朱音の白い手をとった。
「これでも、私は人を見る目があるのです。でも、これだけは覚えておいてください」
 濃げ茶のくるくるとカールした髪をふわりと揺らして、クリストフは膝を床につき黒髪の朱音の目をじっと見た。
「わたしは、自由な男です。誰からも束縛されない。わたしを動かすことができるのは、わたし自身の意思だけだということを・・・」
 そして目鼻立ちのくっきりした謎のこの男は、にこりと邪心の無い顔で微笑み掛けた。
「即ちわたしは誰の命令でもなく、わたし自身の意思で陛下の自分探しの旅にお付き合いするということです」
 ルイはまだこの謎多き美容師の男を信用仕切れない気持ちでいっぱいだったが、なぜかもう少し様子を見ていようと、そう思えたのである。

< 126 / 584 >

この作品をシェア

pagetop